ベンチャーラボ法律事務所 | 弁護士 淵邊 善彦

ベンチャーラボ法律事務所 | 弁護士 淵邊 善彦

NEWS

2019.04.09 TOPICS

【相手企業の事前調査が大事な海外M&A(3)】

ベンチャー・スタートアップ・中小企業の経営者の皆さんの中には、海外展開を考えている方も多いことでしょう。

本連載では、事例を通して海外取引の際に気をつけるべきポイントをお伝えしていきます。

<事例>

日本企業A社は、タイ企業B社に主力製品の製造を委託していた。B社は同族経営で、X社長とその妻が全株式を保有していると聞いていた。  

X社長は、A社に対し、「リタイアしたいので、私と妻が保有する自社の全株式をA社に1億円で譲渡したい」と伝えてきた。A社は、B社の全株式を取得して完全子会社化することにより、本格的なタイ進出の足掛かりにできると考えた。  

X社長から他にもB社の株式取得を希望する企業が出ていると、決断を急がされたため、詳しい調査はせずに1億円を支払ってB社の全株式を取得した。

ところが、いざB社の経営を始めてみると、
・最近販売した製品のかなりの数が不良品として返品された。
・B社の会計書類には多くの不良在庫や不良債権が載っていた。
・解雇した社員が復職を求めてきたり、キーパーソンが辞めてしまったりで製造能力が低下した。
・B社は銀行から返済不能な多額の借り入れをしており、担保に入っていた製造施設の所有権はすでに銀行に移っていた。  

結果、B社の経営はすぐに行き詰まった。A社としては騙されたも同然なので、X社長に損害賠償請求を行おうとしたが、X社長は株式対価として受領した1億円をどこかに隠し、行方不明になっていた。


第1回・第2回では、事前調査(デューデリジェンス、以下「DD」) におけるポイントをお伝えしました。

第3回では、支払時のポイントをご紹介します。


海外M&Aの際、お金を支払ってしまったら最後です!


重大な問題がM&A実行の前または後に判明したときのために、契約書では、契約内容が事実であると相手に保証させる表明保証や、補償などの条項を設けることになります。

こういった条項によって、事前に対価を調整したり、事後的に損害賠償を請求したりすることが法的に可能となるのです。

その中には、英文契約特有のわかりにくい内容もありますので、必ず専門家のアドバイスを受けるようにしてください。


しかし、残念ながら海外企業は契約書に従わないこともありますし、事例のように前経営者が行方不明になるということもありえます。

仲裁や裁判を提起することも、勝利して国を越えて売主からお金を強制的に取り立てることも、時間や費用がかかって現実的ではなく、功を奏さないケースも多いのです。新興国などにおいては、そもそも日本で得た判決を現地で強制執行できないのが通常です。


そういった意味でも買主は、DDをしっかり行った上で、海外企業との取引ではいったん支払ったお金は絶対取り戻せないというつもりで対価を支払うべきです。


可能であれば、事後的に問題が見つかった場合に備えて、分割払い契約としておくことが、単純かつ有効な手段です。特に最終支払いは、「買収後のオペレーション開始後、数か月経ってから」とすると、不正や隠ぺいの抑止力としても効果的です。


また、海外の企業を買収する場合、為替の変動リスクに注意する必要があります。分割払いとした場合、最終支払い時に為替市場が思わぬ事態で円安(支払い通貨高)になってしまい、買収費用が上昇することがあります。リスクヘッジのために通貨オプション(一定のレートで通貨を購入できる権利)を購入する手法もありますが、オプション料を支払うとかえって割高になることもあります。しかし、全額に対して為替予約をしてしまうと、買収が取りやめになった場合の為替変動で思わぬロスが発生することもあります。また、アジアの国々のM&Aでは支払い通貨は米ドルが一般的ですが、人民元やトルコリラ、タイバーツなどの現地通貨建てとなる場合、金額によっては為替市場におけるインパクトが甚大になり、相場を動かしてしまって不利なレートで取引せざるを得なくなる場合があります。為替リスク対策については事前に取引金融機関とよく相談する必要があります。


優秀な中小企業経営者の方々は、海外進出の前に、幾度も現地に足を運び、買収後のシナジーを想定し、それを阻害するリスクを把握してビジネスを成功へと導いています。


3回にわたって、海外M&Aの際の注意点についてお伝えしてきました。

ぜひ参考にしてください。

(3回シリーズ  おわり)

Category
Archive